SPEED

(04/5/10)
　今井絵理子が１７５RのSHOGOと妊娠結婚。年齢を改めて確認して驚いた。もう20歳なのかと。彼女たちが芸能界を席捲してしていた頃、小学生と中学生のユニットだった。どうしてもそのままのイメージで彼女たちを捉えがちで、いくらセクシーな衣裳を身にまとおうとも“元SPEED”として元気で明るい女の子と見てしまう。それが、いきなり妊娠して結婚との報道。はあ、やっぱ沖縄だなあというのが最初の感想。私は当時20代後半の独身ライフを金沢で謳歌していたが今は結婚して身重の妻をかかえているわけで、そう考えればそうなってもおかしくないのかなあとも思えた。中学生時分から大人の世界にいるのだから身体も心も成熟するのも早かったのだろう。恋人が絶頂に達しようとしているバンドのボーカルが相手と聞いて街中がみんな目覚めるほどの衝撃だった。ああ、昔好きだったアイドルがどんどん結婚して私も卒業していく。

(99/10/13)

  SPEEDが解散宣言をした。驚きはしたがこのごろそういう雰囲気はあったのでやはりという気もした。自称アイドル評論家として少々考えを述べたい。

97年11月30日に私は某サークル会報に以下のように記している。

「『White Love』がヒット中だが、この状況は果たしていいことなのだろうか。中高生が等身大の自分を感じられる身近な存在として、昨年の『STEADY』以来ブレイクしている。忙しくなれば学校にも通えなくなる。普通の学生生活を過ごせない、歌にリアリティが感じられない、とならないだろうか。背伸びした歌詞が多いが（中１の女の子に「抱いていて」と歌わすのはどうか）、このままでは早熟で終わってしまう。アムロやMAXも確か中卒だが、なんか沖縄を象徴している。アムロは沖縄で普通に生活していたとしても20歳くらいで結婚していただろう、というコラムがあったがその通りだ。芸能界という華やかながら胡散臭い世界で、本土という外国から外貨を稼いでいく沖縄アクタースクール出身者たち。私は彼女たちを応援するため、カラオケで熱唱するのだ。」

その後、伊秩弘将プロデューサーが彼女たちの成熟度を考えれば音楽性は決して間違いない、とNHK『トップランナー』で語っていた。同世代から下に共感を求めるのではなく、OLや女子大生など上の世代に求めるのだという。そして常に変化し続けるのがSPEEDだという。彼は心底SPEEDという素材に惚れ込んでいた。また本人達も昨年夏のNHKスペシャルで、普通の中学生が部活をやっている感じだから忙しくても平気だし楽しい、と語っていた。

私はグループには寿命があると思っている。特に頂点に立ち続けることにはエネルギーの消耗が激しいので終わりは早まる。バンドやお笑いなどと違い、アイドルグループの場合は一度旬を過ぎたらそのまま継続は困難だ。少年隊やSMAPなどもグループで頂点を極めた後はソロ活動に重点を置いている。常にトップギアで3年、最も多感な時期をフルスピードで走り続けた彼女たち。人気絶頂のうちに惜しまれつつ解散することができることは最高の幕引きだと思う。（「人気があるうちに」ではなく「人気絶頂のうちに」という意味ではやはりキャンディーズ以来ではないか。）解散の原因が巷間言われているようなことだとしても、いいグループ活動だったと思う。

私がSPEEDを好きになったのはテレ朝系『いたずらなKISS』の主題歌で『STEADY』を聴いたときだ。そのころはまだSPEEDをよく知らず、歌番組で彼女たちが歌っているのを見て、これは夜もヒッパレのような企画で子供に歌わせているのだろう、と思ったくらいだ。だから小中学生の4人組と知ったときは本当に驚いた。そして行きつけのスナックでこの曲をリクエストしては、絶対この子達はビッグになるよと吹聴していた。だから1曲を挙げろと言われれば『STEADY』だ。その後では『White Love』が名曲で、最も4人が輝いた瞬間だと思うし、魅力がすべて出ていた。『ｍy graduation』は卒業ソングだが彼女たちの年齢とあまりに離れた内容だったので個人的にはあまり評価していない。で、その後の曲はカラオケで歌うことも少なくなった。

あまり触れられていないがSPEEDが想像以上に小中高生に影響を与えていたことは主演映画『アンドロメディア』のヒットが証明している。アイドル全盛の80年代でもアイドル映画は興行的には振るわなかった。（角川3人娘の映画をアイドル映画と呼ぶには抵抗がある。）近年ではアムロの『ザ・カンニング』（タイトル自信なし）なども話題だけだったと思う。松田聖子やたのきんトリオでもそんなことはなく、詳しい資料は持ちあわせないがチェッカーズ絶頂期の『TAN―TANたぬき』くらいしか思いつかない。生で本人を観られるコンサートで動員するよりも凄いことなのだ。

今後の彼女たちだが上原多香子に期待している。彼女の新曲はかなりアイドルテーストの強い作品だ。今井はこれからどんどん肥えそうだが正直ソロは辛い。ひとえちゃんは踊りの勉強をするというので将来はダンス中心ユニットのプロデュースでもやってほしい。そして島袋寛子、希望通り沖縄に戻って普通の生活を送ったほうが本人のためだと思う。3年間でもっとも自身を消費させたのは彼女だったようだ。4人ともテレビでの演技を見るかぎりあまり女優にも向いていないようだし、そもそもソロとしては実は線が細かったという事実に今になって気づかされている。

助走もほとんどないまま、いきなり全速力で駆けることを要求された結果が３年間の実績だ。しかし考えてみるとデビュー前から沖縄でトレーニングをしているわけだし、彼女たちも疲れがでて当然。「勉強をする時間やひとりの時間が欲しかった」らしいがそれも当然。テニスや体操、水泳では選手の低年齢化が進み、燃えつき症候群が問題になっている。長い人生だ、そうならないためにも人間として充電して欲しい。そしてこの３年間を後で「周りに躍らされていた」「思い出したくない」などと否定してほしくない。フツウさ、親近感が魅力だった彼女たちの言動に救われた人も多いのだ。たとえいろいろあったのだとしても元キャンディーズの３人が口を閉ざしているように、グループ時代のことは話さないでほしい。

♪会いたくてたまらない~、あの曲を初めて聴いたときの衝撃は忘れないだろう。再結成などすることなく、伝説として輝き続けることを切望する。

推奨文献『音楽誌が書かない「Jポップ」批評』（別冊宝島編集部編）