白いクリスマス　’95

いつごろ気づいたんだろう、今年の有馬がイヴにあるって。

やけに意識して、独り身の寂しさに震えていた。

20歳からずっと同じ人と過ごしてきた、イヴ。

TVや雑誌のクリスマス特集を目にするのがつらい、

街に流れるキャロルを聞くのがつらい。

今年、今宵、僕は風邪でぜーぜーいいながら有馬のリプレイをぼんやり見ている。

外は昨日から大荒れだ。窓を強風が揺らす。

散らかった部屋を片づけもせず、自分もまたその雑多なものたちに埋もれていく。

こぼれたミルクを悔やんでも仕方がない、覆水盆に返らず。わかってる。

理想（イデアーレ）を追い求めつづけた6年間だった。

5年前、バブルの余韻に浸り、トレンディドラマに憧れた。

ドラマティックなラヴアフェアーしかしたくない、が口癖だった。

オグリが感動のラストラン。夢があった。

4年前、彼女がいなかったけど楽しかった。仲間とバカやってた。

それはそれで楽しい、それを知った。しかし、想いは消えず。

最後のつもりで告白、まさか叶うとは、イヴの夜だった。

おっと、びっくりダイユウサク！

3年前、あんなに甘く満ち足りた生活は2度とない。

もう1度、と願ってもあんなにうまくいく可能性はない。

なにもかもがうまくいった。

いったいった、パーマーだ、パーマーだ。

2年前、大学最後の年、旅行ばかりした。

師走、卒論作成に入るが僕はワープロが打てない。

勤め帰り、毎晩のように逆方向の僕の部屋に寄ってくれた。

土曜日曜年末休み、一日中部屋に来てくれた。

締切りの大晦日にやっと完成。そのとき、

そのとき思った。心から思った。ずっと一緒でいたいと。

テイオー奇蹟の復活。最後の輝きは彼女とともに観戦していた。

昨年、僕等は離れ離れになった。

遠くの最愛の人より近くのいい人。傍にいてくれる温かさがなにより勝る。

転校ばかりしてきた僕の昔からの持論。

毎日顔を合わせてなきゃ、些細なことからすれ違いが生じてしまう。

生じたときに誤解が解けなくなる。

すぐ傍に頼れるものがあればすがりつきたくなる。責められない。

イヴ、『愛が生まれた日』をデュエットした直後に彼女は泣き出した。

クリスマス有馬、ブライアン文句なし。強いものは強い。

彼女はそれだけの女だったのか。冷静に判断する気はない。ただ、

夢にまで見るほどの女の子だったわけで決して昔の自分は否定しない。

否定したくないからではなくて、

そのときに僕にとって何よりかけがえのないひとだったことは事実だから。

彼女があって成り立っていた幻想（イリュージョン）のモラトリアム。

彼女という現実を失くしてしまったことはあまりにも大きい痛手だ。しかし、

だからといってあの満ち足りた日々さえ失くなるものではない。

それは彼女とて同じはずだ。

夢のなかに生きずようやく日常に舞いもどる。今、その時だ。

6年間に彼女に山のように手紙を書いた。

おそらくそこにもこ難しい言葉が並んでいる。

彼女を想うとき僕は人の世を考える、人の間を考える。

こうして自分の行き方を考えるときがまた訪れるとき、そのときこそ

新たな僕の、恋の始まりだ。

果たして有馬が真のチャンピオン決定戦なのか。ただ、

ダービーがその年の競馬を思い起こさせるものならば、

有馬はその年の自分を思い起こすものとは言えないか。

今年の有馬はなんとなくマヤノトップガンが勝った。

いつかきっと、あのころのように。そう信じたこの1年。

年の終わりにやっと手応えを掴んだ。ような気がする。

風邪薬が効いたのか眠っていた。時計に目をやる。

今日はクリスマス、白いクリスマス。

これは95年クリスマスに書いたものです。当時は金沢に住んでいまして、ちらちら雪が舞い降りたクリスマスでした。私もいろいろ悩んでたんですねえ。今年2000年も有馬記念がイヴにあるのでひっぱりだしてきました。